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東京地方裁判所 昭和43年(刑わ)231号 判決 1969年5月15日

主文

1  被告人を懲役五年以上一〇年以下に処する。

2  未決勾留日数中一五〇日を右の刑に算入する。

3  押収物件中犬の鎖一本(昭和四三年押第一、一二七号の一)は窃盗の被害者横山勝吉に、庖丁二丁(前同号の二)は同須田純一に、麻雀牌六組、郵便はがき一包(二〇〇枚入り)、乾電池一箱(一六個入り)、ガラス切り一個、万能ナイフ一丁、体温計一個、黄色バスタオル一本、日立テレビ一台、ドライバー計三本(前同号の三、六ないし一五)は同国土計画株式会社軽井沢支店に、アロマガスライター一個及び紺サージズボン一本(前同号の四・五)は同林誠に、糸鋸一個、固形熱料八個及び缶入りマヨネーズ一個(前同号の二六ないし二八)は同露木淑子に、望遠鏡一台、白米二・二瓩、印鑑一個及び家族カード一枚(前同号の三六、三七、四二、四四)は同渡辺万助に、それぞれこれを還付する。

4  訴訟費用中、証人宮城恭三、同三宅勝二(二回分共)、同福山仁、同山口勝康、同広井信彦、同武藤忠平(二回分共)、同中北敏明、同小杉益夫、同羽鳥孝一及び同松川雅一に支給した分を被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、肩書住居地において農業を営んでいる柳沼久弥、美野夫婦の間に七人兄弟の末子、三男として出生し、居町鏡石町の小、中学校を経て昭和四〇年四月須賀川市並木町に所在する福島県立岩瀬農業高等学校に入学し、食品加工科の生徒として在学していたが、窃盗の犯行によって警察の取調を受けるようになったため、第三学年第三学期の昭和四三年一月末退学処分になったもので少年法上の少年にあたる者である。被告人には、幼時から、友人を作らず独りで遊んでいることを好むような性向があったが、この性向は、小学校、中学校、高等学校と進むようになっても根本的には変るところがなかった。そして、小学校五年生の頃から乾電池を動力源とする玩具、模型類の製作に興味を示していたほか、小学校卒業前後の頃から独りで書物を乱読するようになり、中学時代にはいわゆる空想科学ものの書物を好んで読んだりもした。また、高等学校に進んでからは化学の実験に興味を示し、第二学年第二学期の昭和四二年秋には自宅の兎小屋でニトログリセリンを合成する実験をしてみたこともあった。一方読書の方は、高等学校第二学年から第三学年へと進むにつれ、乱読の傾向が強まり、宇宙科学や心理学に関するもののほか、殺人事件等に関する推理小説的のものや犯罪科学に関するものなどをとくに好んで読むようになっていったのであるが、

第一、被告人の級友である○○○○○が郡山市田村町田母神に住んでおり、同人方に遊びに行った際に、附近で行なわれていた国道新平線の道路工事にダイナマイトを使用する爆破音を聞いたことがあり、火薬を貯蔵する小屋のあることも知っていたのであるが、昭和四一年一二月三一日から前記田毎神地内に泊りがけで遊びに行っていた機会に、被告人が提唱して、いずれも高校生である○○○○○、○○○○及び○○○○と共謀のうえ、翌昭和四二年一月一日午前二時頃、田母神地内にあった酒井建設株式会社国道新平線工事現場火薬類庫外貯蔵所内より、同現場事務所長佐藤正三保管に係る日本化薬株式会社製品の二号榎ダイナマイト約一四五本(薬量一本一〇〇グラムのもの)及び右同会社製品の六号瞬発電気雷管約八〇本(時価合計七、二〇〇円位)を窃取し、

第二、右窃取したダイナマイト及び電気雷管は、一時、前記田母神地内の空家に隠したり、岩瀬農業高等学校内の被告人使用のロッカー内に置いたりしたうえ、昭和四二年一月下旬自宅に持帰り、以後自宅階下六畳の自室内にダンボール箱に入れて保管するようになったのであるが、春期休暇中の同年三月二〇日頃、書物をくり抜いてその中にダイナマイト四・五本を入れ、これを持ち歩いて友人に誇示してやろうと考え、被告人の手許にあった書籍のうちで一番大型の縦約二二・五センチメートル、横約一五・五センチメートル(ただし、表紙の大きさ)の河出書房新社発行のカラー版日本文学全集3、与謝野晶子訳「源氏物語下巻」本体の中央部を安全剃刀の刃を使用して縦約一五センチメートル、横約七・五センチメートル、厚さ約二、三センチメートルに亘ってくり抜いたが、右の作業をしているうちに、これに前記ダイナマイト及び電気雷管を組み合わせた爆発装置をつくろうと、そして、漠然とではあるが、同年四月一五日から六泊七日の予定で関西方面に行くことになっていた岩瀬農業高等学校第三学年生の修学旅行の際にこの工作物を東京駅構内の何処かに置いてその爆破効果をたしかめてみるとかの、世間を驚ろかせるような何か大きいことをやってやろうということを考えるに至り、どのような装置にするかについて考えた結果、右「源氏物語下巻」の本体をそのケースから引き抜く際に電気回路が形成され電気雷管、ひいてはダイナマイトを起爆する装置を作ることを思い付いた。そこで、その頃から同年四月初旬までかかって、前記自宅階下六畳の自室において、右「源氏物語下巻」本体の地部小口の端より約二センチメートル入ったところに、乾電池をその陽極部分が書物本体の底の中央部に突出すようにして挿入する予定で、底の方に開口する一・一センチメートル四方深さ約二・六センチメートルの孔をくり抜き、右孔の大きさに見合う程度の大きさの一般に単五乾電池といわれる公称電圧一・五ボルトのUM―5乾電池四個を須賀川市内の玩具店で購入する一方、前記のとおり本体の中央部分にくりぬいた大きい空洞の中に、六号瞬発電気雷管をそれぞれ一本宛深く差し込んで結着した二号榎ダイナマイト三本(薬量一本につき一〇〇グラムのもの)をビニール袋に入れてセロテープでとめたものを入れ、その右側に生じた隙間ともいうべきところに、これを埋める目的で解体した置時計の部品約四〇個を入れ、その上に脱脂綿をのせてこれを押え、電気雷管三本から雷管一本毎に二本宛出ている脚線を直並列に結線し、右結線の一方の先端の被覆を取り除き、これを、地部小口寄りにくりぬいた小さい孔に挿入する予定の単五乾電池の陰極部分に接続させる予定で、先端をぜんまいのように小さく巻き、これをアルミ箔を二〇折くらいに少さく折りたたんだものの間にさしこみ、他方前記下巻のケースの底の内側でケースの開いた方の端より約七センチメートルの距離の部分に、ケースの開いた方から奥の方に向って右側のケースの裏の下部からケースの底の巾一杯にL字型にアルミ箔をその三方の端をセロテープで押えて貼りつけ、電気雷管の脚線を結線したものの今一方の線は、書物本体の外に出る部分が一二、三センチメートルの長さになる程度に切ってこれを書物本体の見開き部分の方から外に出し、これをL字形に押し曲げてケースの開いた方より奥の方に向って右側の底の隅、すなわち折目に当るところを這わせ(その途中三個所位をセロテープでとめる)、その先端の部分の被覆を取り除き、これをU字形に折り曲げ、このU字形になった先端を前記のようにケースの内側にL字形に貼ったアルミ箔の底の部分の中央部に置き、その上に巾約一センチメートル、長さ約三センチメートルの六つ折ないしは八つ折にした長方形のアルミ箔を被せ、この長方形のアルミ箔の両端にセロテープを貼ってこれを押え、これを要するに、地部小口寄りにくり抜いた小さい孔に予定どおり単五乾電池を挿入しその陽極部分が外に突出するようにした場合、右陽極部分の外側に表表紙から裏表紙にかけて橋をかけたようにして貼り渡す予定にしていたアルミ箔を介して電気雷管の脚線を結線したものの今一方の先端が乾電池の陽極部分に接続し、電気回路を形成して電気雷管を起爆し、ダイナマイトを爆発させることになる原理のものを作り上げた。そして、これを作り上げるまでの間の同年三月三一日には、東京駅の構内にいわゆる「みどりの窓口の爆破事件」なるものが発生し、それに関する新聞記事等を見たこともあって、その頃確定的に東京駅構内の何処かにこの工作物を置く考えになった。かくして、同年四月一五日、右の工作物を携帯して、引卒教員及び同僚生徒と共に午前八時三四分須賀川駅発の東北本線上り急行「あずま」に乗車し、上野駅に着くまでの途中、右列車の便所内において、前記工作物を取り出し、書物本体の地部小口寄りにくり抜いてあった小さい孔に自宅から用意、携帯していった外径一・〇八センチメートル、総高三センチメートルの神田乾電池株式会社製品の単五乾電池一個(須賀川市内の玩具店で購入した四個のうちの一個で、電圧一・六四ボルトくらいの未使用に近いものであった、なお、塩化ビニール製の被覆及びラベルを取り除き、その代りに絶縁体として亜鉛管の周囲にセロテープを貼ったものである。)をその陽極部分が本体の外に突出するようにして挿入し、その外側に同じく自宅から用意携帯していった巾約一センチメートルの細長いアルミ箔を電池の陽極部分に接するようにして、すなわち橋状にして表表紙から裏表紙にかけて貼り渡し、その両端をセロテープで押え、このようにした本体をケースの中に納めて、爆発装置のある工作物を計画どおりに完成した。そして、これを携帯して上野駅を経て東京駅に至り、午後一時二〇分同駅発の東海道新幹線こだま号に乗車するため、午後零時一〇分頃新幹線用一七番ホームに入った。そして、発車までの待時間を利用して、予ての計画どおり前記工作物を東京駅構内の適当な場所に置くためその場所を探し回ったが、適当な場所が見当らないでいるうち、午後零時二七分頃新幹線用一九番ホームに上ってみたところ、零時三〇分発車の予定のひかり二一号列車が同ホームに入構停車していたので、同列車内に入り、一等座席のある七号車まで行ったところ、右七号車の後方部には乗客がいなかったので、前記のとおりの装置のしかけてある工作物を客席に置けば、乗務員あるいは乗客でその存在に不審を抱いて書物本体をケースより引き抜く者があってそれが爆発する可能性があり、その結果として少くとも右の本体をケースより引き抜く者及びそのすぐ周囲にいる者を死に致し、さらに外辺にある者に対しても傷害を負わせる可能性のあることを知りながら、自分が苦心して制作した工作物の爆発効果をたしかめ誇示するとともに世間を驚かせてやりたいという気持から、結局乗務員及び乗客の現在する電車である前記ひかり号列車を破壊し、乗務員及び乗客の一部の者の身体、生命に対し危害を加える目的をもって、前記工作物を列車全体としては八六〇名余、七、八号車だけでは四四名位の乗客とその外に乗務員七名位の現在する右列車の七号車一六番D席の座席の上に置いて同列車より退去し、同日午後二時一〇分頃、愛知県下豊橋駅附近を進行中の同列車八号車先頭部分にある専務車掌室において、右工作物の存在に気付き、車内放送によってその持主の在否をたしかめるべきか否を専務車掌に相談するため、これを七号車一六番D席より取り上げて持って来た車掌岡泰一郎よりこれを受け取った情を知らない同列車の専務車掌宮城恭三をして右岡泰一郎のほか乗客掛車掌福井孝義も宮城に身体を接して同席する状態でその本をケースより引き抜かせ、もって前記のとおりの装置のしかけてある工作物、すなわち爆発物を使用するとともに、電車を破壊し、他人を殺害すべき行為を完了したが、たまたま乾電池の陽極部分と電気回路を形成する予定になっていた電気雷管の脚線を結線したものの一端がこれを覆ってケース底の内側に渡してあったアルミ箔を切って外れてしまい、電流が流れるに至らなかったため、ダイナマイトを爆発するに至らず、従ってまた、列車を破壊し、人を殺害する目的を遂げなかった、

第三、昭和四二年五月三〇日、福島県須賀川市並木町一三九番地福島県立岩瀬農業高等学校第二職員室において、同校校長村田春男保管の現金約一五〇円及びテープレコーダー一台(時価五、〇〇〇円位相当)を窃取したほか、別紙窃盗犯罪一覧表記載のとおり、単独でまたは○○○等と共謀のうえ、昭和四二年九月中旬から同四三年二月一〇日頃までの間三〇回に亘り、福島県郡山市中町一四の二五金物雑貨商横山勝吉方ほか一七箇所において右横山勝吉ほか一六名保管の現金合計七万四、四八〇円位及び軽四輪自動車一台、テレビ四台、望遠鏡一個、カメラ一個、トランジスターラジオ四個、テープレコーダー二台、ポータブル電蓄二台、その他の物品八五点(以上物品合計一〇〇点、時価合計五五万八、四〇五円位)を窃取し、

第四、業務その他の正当な理由がないのに、昭和四三年二月一六日頃、福島県郡山市田村町大字田母神字作の入一三〇番地中畑賢二方において、刃体の長さが六センチメートルを超える(約一三・五センチメートル)登山ナイフ一丁を携帯し

たものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人今野昭昌及び同遠藤寛は、

一、判示第二の殺人未遂、電車破壊未遂及び爆発物取締罰則違反の犯行について

1  被告人が制作した工作物は、書物本体の地部小口寄りにくり抜かれた孔の深さ及びこれに挿入された単五乾電池の総高がいずれも約三センチメートルであるから、それだけでも乾電池の陽極部分が孔の外に突出することにはならないところ、その上に書物本体の表紙がその内容部分、すなわち本紙よりも約四ミリメートルはその外に突出しているということがあるため、乾電池の底部に雷管の脚線を結線したものの一方の端をはさんだアルミ箔が入ることを計算に入れても、表表紙から裏表紙にかけて橋状に貼り渡されたアルミ箔と乾電池の陽極部分の間、そして天地を逆にして持った場合には乾電池の陰極部分と脚線の先端のアルミ箔との間に間隙を生じ、電気回路を形成しないこと、ケース底の折目を這わせた電気雷管の脚線が書物本体をケースより引き抜く際に必然的に外れる関係にあったこと、書物本体の地部小口寄りの孔に挿入された乾電池は単五乾電池で、日本工業標準規格によっても、一五オームの放電抵抗を通じて、一日につき一〇分間、一週間につき五日間の割合で摂氏二〇度下で放電した場合、放電終止電圧〇・八ボルトに達するまでの通算放電持続時間は七〇分ないし八〇分であるところ、被告人は昭和四二年四月一四日までに本件工作物に使用した乾電池を右持続時間を上廻る時間使用しており、雷管一本を起爆するに必要なだけの電流を流す能力がなかったこと、乾電池の陽極部分の外側、書物本体の表表紙から裏表紙にかけて貼り渡されたアルミ箔は、乾電池の重量などのためたるみを生じ、U字形を呈していたのに対し、乾電池自体は絶縁体である塩化ビニール製の被覆及びラベルを除去してあったから、乾電池の亜鉛管はその肩の部分までが電導体となり、U字形になったアルミ箔に対し何らかの力が加えられた場合は、これと接触すると同時にショートを起し、使用不能となるべきものであったこと等の理由により、そもそも爆発を起すことが絶対に不能であった

2  被告人の本件犯行は、その動機及び目的に理解し得るものがなく、全く衝動的な犯行というのほかはなく、被告人が未必的にしろその行為のもたらす結果について認識していたとすることには疑問があるばかりでなく、被告人自身はその制作した工作物を爆発しないものとして認識していたとみられるから、いずれにしても、爆発物使用、電車破壊、殺人の犯意があったということはできない

3  爆発物取締罰則第一条の罪が成立するためには、行為者に治安を妨げまたは人の身体財産を害せんとする目的のあることが必要であり、この目的は、確定的ないしは積極的なものであることを要するところ、被告人は、衝動的に右犯行に及んだもので、右のような目的があって行動したものではないから、右罰則第一条の罪は成立しないと、

二、判示全犯行について

被告人の各犯行にはその動機として理解し得るものがなく、いわば動機のない犯行である、精神分裂病の初期に動機不明の殺人が起ることは学者の指摘するところであるが、被告人については、被告人を診察した精神医学の専門家から、感情浅薄、反省追想拒否、自閉性、情性欠如等の特徴が指摘されており、学者によってその呼称は異なるが、単一型、類破瓜型もしくは潜在精神分裂病患者に属するか、然らずとするも精神分裂病質人格の範疇に入る者であり、行為当時、是非を弁識する能力を著しく欠き、心神耗弱の状態にあったと主張する。

しかし、

一、当裁判所が証拠により認定した本件工作物の装置、構造は判示のとおりであって、書物本体の地部小口寄りにくり抜かれた孔の深さが約二・六センチメートルであるのに対し、これに挿入された単五乾電池が総高約三センチメートルのものであり、そのほか乾電池の底部、陰極部分には、実物がないためその正確な厚さは不明であるがこれに接続させるために配線された雷管の脚線を結線したものの一方の先端は二〇折り位に折りたたんだアルミ箔の間にはさんであり、このアルミ箔も存在したと認められるのであるから、書物本体の表紙がその本紙すなわち内容部分よりも多少(当裁判所の実測の結果では精々で二・五ミリメートルである。)出張っていることを考慮に入れても、乾電池の陽極部分とその外側に表表紙から裏表紙にかけて貼り渡されたアルミ箔との間、そして天地を逆さにして持った場合においては乾電池の陰極部分と雷管の脚線を結線したものの一方の先端のアルミ箔との間に、間隙を生じ、電気回路を形成しなくなることは、先ず考えられないというべきであり、被告人が実際に使用した単五乾電池の能力についても、右乾電池が昭和四一年九、一〇月頃に製造されたものであっても、≪証拠省略≫によれば、これが、犯行後間もなくの昭和四二年四月一八日の時点において、一・六四ボルト位の電圧を有し、二・五アンペア位の電流値を示すものであったことは否定すべくもない事実であると認められるのであるから(弁護人は、警視庁所属の羽鳥孝一巡査部長が昭和四二年四月一八日松川雅一の許に持参した単五乾電池は、被告人が本件工作物に使用したそれとは異なる新品ではなかったかとの疑問を有するもののようであるが、証拠によれば、警視庁が愛知県警察本部より事件及び証拠物の引継を受けたのが同年四月一七日であることは明らかであり、羽鳥巡査部長は翌四月一八日に、捜査の第一歩として、本件工作物に使用されていた乾電池のメーカー等を知るために東芝レーオパック株式会社の研究部主任技師である松川雅一を訪ね、この訪問の結果神田乾電池の製品らしいということを知ったのであり、松川雅一を訪ねる以前の、未だどのメーカーの製品であるかも判らない段階において、別の神田乾電池を用意し、そのラベル及びビニールチューブをはがし、亜鉛管に傷までつけて持参したということは、到底首肯できないことである。)、右乾電池が本件犯行時において六号瞬発電気雷管の一本を起爆するに十分な能力を有していたことは否定できず、むしろこれに反する内容の、すなわち、本件工作物に使用した当該単五乾電池そのものを犯行時までに通算して相当時間費消したことがあるという、被告人の供述の信用性が疑われるところであり、弁護人がその論拠として他に主張するところも、この認定を覆えすに足りるものではない、また、本件工作物に使用された単五乾電池がビニールチューブ及びラベルを取り除いたものであったことは、明白であるが、その代りに絶縁体としてセロテープを十分にまきつけてあったことも明らかであり、乾電池の陽極部分の外側に表表紙から裏表紙にかけて橋状に貼り渡してあったアルミ箔がU字形に見える位にたるんでいたということは、これを認めるだけの確証のないことでもあるから、ショート現象を呈する虞れも先ずなかったものといわなければならない。しかしケース底の折目のところを這わせた雷管の脚線を結線したものの一方の線に関する限りは、現実にも、宮城恭三専務車掌が書物の本体をケースより引き抜いた際に、その先端を押えてあったアルミ箔を切って外れていたことに示されているとおり、それが外れて結局電気回路を形成しなくなる可能性があったことは否定できない。このことは、書物の本体とケースの関係が緊密であるため、本体を引き抜く場合に表紙の縁がケース底の折目のところを這わせてあった脚線を動かしたことに因ると推察されるところではあるが、要するに、書物の本体をケースより引き抜く際の力のかかり方如何に依るものであって、常に必ず外れるというべき限りではない。

以上の次第で、本件工作物は常に必ず爆発するというものではないが、爆発する可能性のあったものであることは否定できず、被告人自身としても、常に必ず爆発するものとは考えておらず、爆発しない場合のあることも考えないではなかったが、いずれかといえば、むしろ爆発するものと考えていたことを証拠によって認めることができるのであるから、弁護人の一の1、2の各主張はいずれも理由がない。また、同3の点については、被告人自身が、本件工作物につき、書物の本体をケースより引き抜く者があっても常に必ず爆発するとは限らず、爆発しないこともあり得ると思っていたと認むべきことは、前記のとおりであるが、証拠によれば、被告人が本件犯行に及んだ動機並びに爆発した場合に電車及び人の身体、生命に及ぼす影響について認識を有していたことはいずれも判示のとおりであり、その動機に徴しても、被告人としては、むしろ爆発して電車及び人の身体、生命に危害を及ぼす結果の発生することを期待していたと認められるのであるから、爆発物取締罰則第一条制定の趣旨に照らし、右同条にいう人の身体財産を害せんとするの目的があったというに妨げはないというべきであるから、右3の主張も理由がない。

二、次に二の被告人の犯行時の精神状態については、判示第二の犯行が全くの衝動的犯行ではなく、判示のとおりの動機に出るものであることは、証拠によって認定できるところであり、同第三の各窃盗の犯行も、証拠によってこれを見れば、被告人の実家は経済的に相当余裕のある農家であるとはいうものの、高等学校に在学中の被告人に支給されたいわゆる小遣いが被告人の欲望を充たすに足りず、他の方法によってこれを充たす必要があったことと友人に対し普通にはやり難いことをやって見せるなどして自分に勇気のあることを誇示してやろうと思ったことなどの動機に出るものとしてこれを理解することができるのであるから、被告人の本件各犯行がいずれも動機のない犯行であることを前提として事を論ずる弁護人の所論は、その点において、必ずしも当を得たものということはできない。また、生来的な要素にも由来するところがあってではあるが、被告人が自閉性、情性欠如性を主体とする性格的特徴を有し、精神医学的に分裂病質と称しても必ずしも誤りとはいえない人格の所有者であることは、鑑定人石川義博作成の鑑定書及び右鑑定人の当公判廷における証言によっても肯定できることではあるが、右のような人格の所有者であるからといって、常に直ちに是非善悪を弁識しその弁識に従って行動する能力に著しく欠けるところがあるということは相当ではなく、右は裁判上さらに別途に判定することを要するものというべきところ、本件被告人の場合は、各犯行の動機の理解できないものではないことは前叙のとおりであるばかりでなく、少年鑑別結果通知書添付の医師萱場徳子作成の診断書、前掲石川義博鑑定人作成の鑑定書及び右鑑定人の証言等を参酌して当裁判所の理解するところによれば、知能は正常であり、弁護人が特に問題とする判示第二の犯行も、被告人の特性である情性欠如性と深い関連を有するものであることは明らかであるとしても、情性欠如性の必然的結果であるとはいえず、判示のとおり、それなりに二〇日以上もの思考を重ねての行為であると認めざるを得ず、被告人が本件工作物が爆発した場合の結果の重大性についてさしたる関心を有していなかったかのような形跡のあることは、被告人自身の司法警察員及び検察官に対する各供述調書のほか、修学旅行に同行した友人の司法警察員に対する供述調書によっても窺われることではあるが、右のことも、情性に欠ける点があるため、情感としてこれを深刻に考えなかったというだけで、爆発した場合に電車を破壊し人の身体、生命に対し危害を与えるという結果を生ずることについて認識を有しながら行動したものであることは否定し難く、その他、被告人自身が検察官に対する昭和四三年三月六日付供述調書において供述しているように、被告人が判示第二の犯行後約五箇月間は逮捕されて指紋を採られることを恐れ窃盗の犯行に出ることを自制していた事実があると認められ、当公判廷における観察としても、自ら進んで発言するようなことは全くなく、むしろ黙念として独思している風であり、供述を求められても、とくに記憶喚起に努力する風でもなく、考えがまとまらないとか忘れて判然しないという趣旨の答をすることの多いことは、終始変らないことではあったが、時間をかける労をいとわないで質問すれば逐次記憶を喚起して確実な事実を供述することができ、判示第二の犯行の詳細についても相当良く記憶しているものと認められ、その他自己に不利益になると考えられる事実については、判然とした記憶がないという工合にあいまいに答える傾向のあることも看取できることであり、彼此を総合すれば、本件各犯行時における被告人の精神状態には特別の異常はなく、是非善悪を弁識しその弁識に従って行動する能力に著しく欠けるところがあったとは認められないから、弁護人の右主張も容れることはできない。

(参考事項)

被告人に対する昭和四三年四月一五日付起訴状記載の公訴事実第二のうち、爆発物取締罰則第一条違反の罪の訴因は、同第二記載のとおりの起爆装置をしかけた工作物をひかり二一号列車の七号車一六番D席に置いた時に爆発物を使用した罪が成立するとするものであり、検察官の最終意見もこれと同一の見解を採っている。しかし、右罰則第一条にいう爆発物の使用とは、同条所定の目的をもって爆発の可能性を有する物件を爆発すべき状態に置くことをいい、本件で問題となっている工作物のように、書物の本体をケースより引き抜く行為によって起爆すべき性質の爆発物については、書物の本体をケースに収納したままの状態の物を列車の座席の上に置いただけでは、未だもってそれを爆発すべき状態に置いたとはいえず、判示のとおりの経過で、宮城恭三専務車掌が八号車先頭の専務車掌室において書物の本体をケースより引き抜いた際に爆発すべき状態に置かれたと解すべきであるから、当裁判所としては、右の見解に従い、被告人は爆発物を使用した者ではなく、右罰則第一条にいう人をして爆発物を使用せしめた者にあたるものとして、同じく右罰則第一条違反の罪責を負うべきものとした(宮城専務車掌が列車内において書物の本体をケースから引き抜こうとしたことは、公訴事実中に明記されている事実であるから、訴因変更の手続をしないで)ので、この点を付言する。

(法令の適用)

被告人の判示第一及び第三の各所為は各刑法第二三五条(他人との共謀にかかる分についてはそのほかに同法第六〇条)に、第四の所為は銃砲刀剣類所持等取締法第二二条、第三二条第二号に、第二の所為は、他人をして爆発物を使用させた点において爆発物取締罰則第一条に、殺人未遂の点において、宮城恭三、岡泰一郎、福井孝義のそれぞれに対する関係において各刑法第二〇三条、第一九九条に、電車破壊未遂の点において刑法第一二八条、第一二六条第一項にそれぞれ該当するところ、右第二の爆発物使用の罪、電車破壊未遂の罪、各殺人未遂の罪は一個の行為が数個の法条に触れる場合であり、爆発物取締罰則第一二条の規定により重きに従って処断すべき場合であるから、右第二は刑法第一〇条により最も重い爆発物使用の罪の刑をもって処断することとして、その所定刑中有期懲役刑を選択し、なお第四の罪については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、最も重い第二の罪の刑に同法第一四条の制限に従い加重した刑期の範囲内において処断すべき場合であるが、被告人は少年であるから、少年法第五二条第一、二項を適用して五年以上一〇年以下の懲役に処し、刑法第二一条により未決勾留日数中一五〇日を右の刑に算入し、主文第三項掲記の各押収物件は、判示第三の窃盗犯罪事実一覧表1、3、28、29、30の各犯行にあって得た賍物で、各被害者に還付すべき理由が明白であるから、刑事訴訟法第三四七条第一項により右主文のとおり還付すべきものとし、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(量刑について)

量刑にあたってとくに問題になるのは、判示第二の爆発物取締罰則違反、電車破壊未遂、殺人未遂の犯行についての被告人の責任である。被告人は、右犯行時満一八才には達していなかったものであって、蓄膿症及び痔疾に原因する身体的不調あるいは家庭生活の面及び学校生活の面における不満等の点において、特殊な事情はあったにせよ、肉体及び精神が成長発達し、行動範囲が拡がりを見せるその時期において、その行動を適切な方向に統禦することができなかったという、思春期における一挫折としての本質を有するものであることは、他の一般の少年事犯と同様であり、この意味においては、他の一般の犯罪少年に対すると同様な特殊な配慮が要請されても、必ずしも不思議とはいえず、とくに、被告人については、それが被告人の性格的欠陥と密接な関連があり、その性格的欠陥がまた被告人の生来的要素と無関係なものでもないということが注目すべき点であるともいえないことはなく、その他、問題の工作物は、当初は東京駅構内の何処かに置くつもりであったものを判示のとおりの事情でたまたまひかり号の座席に置くことになったものであり、最初から東海道新幹線列車内に置くことを計画してしたことではないということや、被告人は出生以来福島県下で生活していた者であるため、東海道新幹線列車については、知識としてはそれが高速列車であることを知っていても、自分でそれを利用した経験がなかったことはもちろんのこと、東京、大阪在住の青少年のようにそれが日夜如何に多数の人々に愛用されている高速交通機関であるかということを膚をもって感じ取っていたものではないというような事情も存しない訳ではない。しかし、右のような諸々の事情はあっても、右犯行は、被告人の性格的欠陥と関係はあるとはいうものの、それより必然的に生ずる結果とは認められず、被告人としては、二〇日間以上もの期間をかけてこの犯行に及んだものであり、その間に東京駅八重洲口におけるいわゆる「みどりの窓口爆破事件」が報道されることもあって、この犯行に出ることを思い止まる機会があったのに、それをあえてこの犯行に及んだものであること、本件犯行後ダイナマイト及び瞬発電気雷管を投棄することもなく、むしろその保管温存を計っていたとみられる形跡があり、被告人の爆発物に示す関心に並々ならぬものがあると認められること、とくに本件工作物が爆発した場合の結果が甚だ重大かつ悲惨なものであると認められること等を考えると、それらの諸事情も、被告人の利益のために特別にしん酌に値いする程のものとはいい難く、判示第二の犯行をあえてした被告人の責任はきびしく問われなければならない。そしてこのことは、この種の犯行が被告人のような若年者に模倣され易い性質のものであることを考えると、尚更である。

しかし、本件の場合は、他人をして爆発物を使用させ、結局これを使用した場合ではあるが、現実には爆発しなかった場合であって、現実に爆発し重大悲惨な結果を生じた場合とこれを同一に論ずることは相当ではないし、その他被告人が制作した工作物は、その着想は優れたものであるが、工作物自体は精巧とはいえない程度のものであって、常に必ず爆発するとは限らず、爆発しない可能性も相当あったと認められる等の事情も存するので、その他の一切の事情をも勘案して、判示第二については所定刑中有期懲役刑を選択し、主文のとおりの懲役刑を言い渡すことにした。

(裁判長裁判官 上野敏 裁判官荒木勝己及び同古田満は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 上野敏)

<以下省略>

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